Diamond Dust Storm

まずは長文ごめんなさい。力を入れすぎたようです。

さてDiamond Dustはどう定義されているのか。ほぼ静止時のDiamond Dustを追ってみる。

菊池勝弘先生の著書『雪と雷の世界―雨冠の気象の科学Ⅱー』成山堂気象ブックス028 1999年刊をひもとく。

雪粒が固体からなっている場合は、直径約2~30ミクロンまでを氷霧(Ice Fog)とし、30~200ミクロンまでを
細氷(Ice PrismまたはDiamond Dust) と呼んでいます。

しかし氷霧と細氷の区別は、結晶の大きさよりも、水平視程が1㎞未満を氷霧、それ以上を細氷としているのです。p.11

一方、名寄市や陸別町といった地域は、大気中のわずかな水蒸気による凝結核への凝結→凍結によって氷晶が成長し、細氷Ice Needle が発生します。
細氷は気象用語ですが、最近ではDiamond Dust と呼ばれることの方が多いようです。p.30

秋田大学・梶川正浩のステレオ写真観測によれば、角柱状氷晶では、長さ20ミクロンで2 m/sec、50ミクロンで4m/sec程度。Diamond Dust の落下速度は毎秒数㎝以下とゆっくりです。p.51

極寒のDiamond Dust 体験

      • 大雪山のテントでシュラフから首を出した。吐息の水蒸気が微小粉末になって、パラパラと顔にふりかかる。標高2000m、気温-30℃前後でしばしばこのような体験をした。1960年前後のことである。
      • 北大雨竜地方演習林の北母子里(きたもしり)は日本の寒極として知られる。大学の「冬山造材実習」を指導した折、放射冷却で晴れて、演習林構内の温度計は-41.2 ℃を記録した。1977年2月17日。同じ構内にあった岩見沢測候所の温度計は極値向きではなく、壊れて欠測となった。

      • その日、世界がキラキラと光り輝いていた。演習林の重機のエンジンオイルは固まって始動しない。重機の下の雪を掘り、そこへ薪をくべて半日を始動に費やした。シベリアでは珍しくもない光景だろうが・・

粘着性の高いDiamond Dust

愛読書・小林禎作著 『雪の結晶ー自然の芸術をさぐるー』講談社ブルーバックス163 p.287-288 1960年刊は示唆に富む。

微小粉末の性質として、細かいほど付着性粘着性が高い。しかし、植物菌類鉱物を核とするバイオエアロゾルと違って、驚くことに直径5ミクロン以下のDiamond Dustはない。熊井 基氏の電子顕微鏡による精緻な研究によれば、生まれた氷晶は、体積に比して重い。これは表面拡散によって氷晶の表面を水分子の超薄い液膜(オングストローム単位(0.1 nm)のフィルム)が覆うからである。

いいかえればDiamond Dust は粘着性の高い氷晶であり、結晶面がキラキラ光っていてもサラサラではなく、実はベタベタなのである。そのせいで、Diamond Dustのあるところ、樹氷の花が咲く。セットなのである。

小林先生の解説によれば、接触すると氷晶が絡み合ってすぐに50ミクロン程度の塊になるが、併合は氷晶同士の高速の衝突破壊を促進し、無数の氷片を生む。これらが繰り返され、無数のDiamond Dustが生まれる。

同時に気体から固体になると昇華凝結熱が発生し、気温が上昇する。White-outの世界は意外に生温かい。凍雨、凍着、雨氷などがセットで同時に発生しやすい。

白馬八方尾根スキー場のDiamond Dust Storm

この1月と2月、八方尾根スキー場の雪崩管理の責任者であり、プロフェッショナルのパトロールである森山建吾さんは、ユニークな体験をした。

        • 斜面を噴き上げる風が強く、数時間も続く。

          これは地形性上昇気流で、湿潤性断熱膨張により気塊がエネルギーを消費して冷やされ、Diamond Dustが生まれる。

        • 静穏時のDiamond Dustとちがって、その500~1000倍:10~20 m/secのstormが吹き荒れる。これはDiamond Dust Storm以外のナニモノでもない。

        • スキー板の裏に、下駄状に雪が固く凍着する。Diamond Dust Stormは天界ではなく、現場の足元で起こっている。

        • 雪庇の発達が異様に速い。一方、ざらめ雪は元の氷片サイズが大きすぎるから、たとえ雪煙が上がったとしてもDiamond Dust Stormの威力は生まれない。雪庇の発達は遅い。

        • Soft Slabの幅広い雪崩が、人工的な軽い刺激で発生する。まさに地吹雪の通り道特有の現象で、これが若林らが提唱する「地ふぶき雪崩」2018の実態なのである。

Diamond Dust Storm研究の意義

中谷宇吉郎大先生とその高弟の先生方は、すごく勤勉かつ優秀であったが、過酷なフィールド観測と-50℃の低温室に入り浸った結果、体をこわして60歳前後でバタバタとあちらへ旅立たれた。惜しい、悔しい。幸いにも学生の私はギリギリでお顔を拝することができた。

しかし、現代の現場では、レーダーに頼る気象学者の苦手な、足元からDiamond Dust Stormが沸き上がり、粛々と観測データを蓄積する以外に道はない。例えば遠くから飛んできた過冷却水滴が地物に衝突して過冷却が破れて、モンスターができるというお話は、足元のWhite-outが原因だとしたら、まさに根底から崩れる。対策も異なってくるだろう。

1960年ごろ、ニセコアンヌプリ頂上付近を強風にさらされながらよく歩いた。ラッセルが重い、樹氷が発達している、風が意外に生温かい。こうして体で覚えた雪崩の危険判断が、81歳のいまも生きている。Avalanchistの原点は北大スキー部山班時代に培われた。仲間に感謝である。

ところで気象学者には、Diamond Dust Storm など昔から分かっている「忘れ物」に過ぎないのかも知れない。それじゃ一緒に納得のいく説明を作りましょう。Diamond Dust にcoatingされた輝くフィルム:いい夢を一緒に見ましょうよ!

 

 

 

 

 

関連記事