Prologue

AVALANCHIST-Theory

Prologue 1

Original Theory の構想

2019年9月に荒削りかつオリジナルな雪崩論が誕生した。私の長年の雪研究三つを組み合わせたものである。

既存の <弱層+風下吹きだまり> を基準とした雪崩学の対極にある。

生まれたての吹雪微粒子(特に粒径0.2mm以下で角っぽいギザギザ断面をもつ)がパワー(緻密化という最速凝縮)にあふれて積雪の上層を変形させ、雪崩の元となるというもの。

soft-slabが横・斜めに凝縮してひび割れる。

薄日が差して表層が生あったかい地吹雪の日は、凝縮速度が大きく、雪崩発生に絶好だ。

表層約50㎝までの弱層は、むしろ最初に落ちる層を浅くして、

雪崩規模を小さくする役割を果たしているケースも多い。

風上雪の断面

1965年11月に北大天塩地方演習林に低温科学研究所の雪崩観測施設ができて、雪害科学部門の先生方(藤岡・清水・秋田谷・成田)が精緻な斜面積雪観測をされていた。私はよくご一緒したが、勉強になることばかりであった。

インク液を断面に吹き付けて染色し、トーチランプであぶると、断面の細かい雪の層が見事に浮かびあがる。これは東北の研究者が生んだ日本独特の方法だ。

上の写真は1966年1月20日11:00。表面から下30㎝までは、強風で積雪がえぐられた風削断面。といっても吹き下ろしの強風か横風によるモノかは定かでない。

この洗濯板のような、スプーンカットのギザギザ断面に突入したら、スキーに急ブレーキがかかるに違いない。

荘田幹雄博士に託された難問

1971年の1月、スイス留学準備中の私に、恩師荘田先生の指示で、本州山岳地帯の雪崩航測データの分厚い仮製本の報告書2冊が航測会社から送られてきた。いずれも先生が航測を指導してきたが、結果がすっきりしないから、しっかり読んでおいてくれ、とのこと。

とりあえずその回答を出したのは、1977年。先生が急逝されてから2年後のことであった。

新防雪工学ハンドブック 日本建設機械化協会編 森北出版 1977 p.77-78 (若林記)

最近はなだれ跡の航空写真とコンピュータの併用により、同一条件のもとで、なだれの発生しない斜面数と雪崩の発生した斜面数とを対比させて、確率的になだれの発生しやすさが論じられている。それらの資料の中で、地域をこえて共通している傾向は、次のようにまとめられる。

なだれのもっとも発生しやすい場所:

      • 斜面に平行に(横から)風が吹くところ。雪庇のつく典型的風下斜面とは異なる。
      • 標高の高いところ。
      • 積雪深の多いところ。
      • 傾斜の急なところ。 航空写真でとらえられる規模のなだれ跡については35°~55°の傾斜角の斜面。
      • 植生の疎なところ。

なだれのもっとも発生しにくい場所:

      • 典型的風上斜面。
      • 積雪深の少ないところ。
      • 傾斜20°以下。
      • 樹高の大きい密な森林。

なお、気象的になだれの発生しやすいときは次のようである:

      • 多量の新雪が降るとき。すなわち暴風雪やドカ雪の最中か直後。
      • 気温急上昇、大雨。地震のとき。

ただし、登山者が遭遇するなだれは、

登山者自らが誘発したと思われる、むしろ人工なだれ的なものが少なくない。登山以外のなだれ事故と比較すると、学生や社会人の休暇の時期、しかも日中、行動して積雪に刺激を与えていると思われる時間帯に、数多く発生している。

(参照:京都大学山岳部:1973年11月槍ヶ岳遭難報告、p.52-69、1975)

アラスカでの徹底した雪紋判読

1994年1月、私と労山の中山達生(雪崩講習会指導者)とは、雪崩教育のブラッシュアップのためにアンカレッジへ飛んだ。 Alaska Mountain Safety Center:北米大陸の雪崩プロの誰もがイチオシしたのがJill & Doug夫妻のこの機関であった。

昼間でも夕方のように薄明るいデナリ丘陵山地での講習会であった。上の写真は名著SNOW SENSE (1994)掲載の風上側風削雪紋(シュカブラとかサスツルギ)であるが、右から左へ強風が吹いてこの雪紋ができる。

こうした雪紋の読み方をSide-loadingの現場で徹底的に指導された。航空写真専門家と違って、吹雪に顔を叩かれながら、地上を這いずり回って雪崩破断面を追いかけてきた私にはぴったりの、どろくさい現場講習であった。

地吹雪雪崩の提唱

 

強風が続けば、降雪が止んでからの地吹雪雪崩リスクが増大

2019年9月山形大学で雪氷研究大会が行われ、「地吹雪雪崩の提唱」(若林・原田)を発表した。

詳細は略すが、地吹雪の通りみちでは時間がたつほど雪粒子の粉砕が進み、風成雪スラブ雪崩 (Drifting Snow Avalanche) の危険性が増大するというストーリーだ。

師にお題を託されてから約50年の月日が流れていた。ほぼ納得がいく解を出せたと自負している。

現場の声

これまで国内の沢山の遭難の当事者から話をきいた。

暴風雪が止んで、次の日風は強いが薄日が差している。

部分的にホワイトアウトで、ラッセルは若干重い。

尾根から浅い振り子地形に入り滑っているうちに、雪崩が起きた。

他の関係者が書いた遭難報告はどうであれ、

横風に注目する先生の説明には納得がいく。

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